『君と僕』【青学・不二周助】
君と僕は何時も一緒。
幼稚園だって、小学校だって、中学校だって一緒。
ご近所さんで幼馴染でずっと一緒。
クラスも一緒。
部活も男子と女子でそこは違うけど、テニス部で一緒。
君と僕はいつでも一緒。
「。」
名前を呼ぶと振り返って。
「なに?周助。」
と柔らかく笑う君がいる。
ずっと前から変わらない。
ずっとずっと一緒。
ただただ変わってしまった事。
君がとても綺麗になった事。
とても大人びてきた事。
成長は止められないけどね。
ボクノキミジャナイヨウデ
時々怖くなるんだ。
その足
その足首
その脹脛
その太腿
その体
その腕
その手首
その手
その首
その顎
その口
その頬
その鼻
その目
その耳
その額
その髪・・・
一つ一つ前から知っているはずなのに・・・
時に全く知らない人のようで・・・
怖くなって手を伸ばす。
触れる
確かめるように。
口付ける
繋ぎとめるように。
「周助?」
不安げな君の声。
大丈夫?と上目遣いの君。
「・・・」
君の名前を呼びながら、僕は君の存在を確かめる。
そっと髪に触れ、さらさらと落ちる感触。
君と共に少しずつ・・・綺麗になっていく髪。
「・・・は・・・綺麗になったね。」
少し頬を赤く染め、少し照れる君。
そこは変わらないね。
ずっとずっと一緒。
でも少しだけ不安そうな君。
「周助だよ?綺麗になってるのは。」
まさか。
そっと笑いながら額に口付ける。
綺麗になったのは君だよ。
「違うよ・・・わかってない、周助。」
「周助はどんどん・・・カッコ良くなって、綺麗に、なって・・・」
「人気が出て・・・わ・・・私の・・・こと・・・」
彼女の目から溢れる透明な雫
それは彼女の気持ちの表れ
彼女の抱く不安の結晶
同じ考えを抱えていながら
僕には彼女の不安が解らなかった。
彼女も僕も同じ考えを持っていて
同じ位に不安だった。
「大丈夫」
安心させるように彼女を抱き寄せて
安心させるように肩を抱く
安心させるように何度も何度も
僕は彼女の髪を梳く
何度も何度も
滑り落ちる髪の毛は滑らかで
心地良くて
『・・・』
何度も何度も
君をを落ち着かせるためにも
僕を落ち着かせるためにも
君と僕は何時も一緒。
考える事も、
不安も、
喜びも、
嫉妬も、
成長も、
全部全部二人一緒。
(離れられない。束縛と言う枷をはめているだけとしていても)
『過去と未来』【立海・柳蓮二】
夢を見た。
小さい頃の、夢だった。
俺は小さい頃おかっぱだった。
あれは何故だか知らないけれど、
俺は兎に角おかっぱだった。
その髪型と、
自分で言うのもなんだが、あの容姿で
女子に間違えられることもしばしばあった。
「お人形さんみたい。ってえ!?男の子なの!?」
だの
「座敷わらしってこんな感じだよねv」
だの。
その時俺は貞治と良く一緒にいたが
もう一人、実はいたんだ。
そいつは正真正銘の女子なのに
何故か男子に間違えられていた。
それは髪型の所為だったからかもしれない
又は声色が男子のようだったからかもしれない
それか口調の所為だったかもしれない。アイツは口が悪かったから。
兎に角そいつは男子のようだった。
本人は大して気にしてなかったようだけど、
俺はいつも気にしていた。
アイツは無茶ばかりして
自分が女だと知ってやっているのか否か
不明な点が多い奴だった。
そんなに一回怒鳴った事がある。
その時の夢だった。
貞治が苛められていて、俺が止めようとした。
けれどアイツが先に駆けて行って、貞治を苛めていた奴らを殴った。
そいつらは驚いていたけれど、殴り返した。
女子だと知らずに。
結果的にはが勝った。
アイツは喧嘩が強かった。
けれど怪我をしていた。
手、足、顔。
あの時から冷静な子と言われていたが、俺は怒鳴った。
「お前、女だろう!」
きょとんとしていた。
そして泣いた。
自分は好きで女になったんじゃない、と。
本当は男が良かった、と。
そうしたら蓮二と貞治と同じだから…
そうだ。アイツはあの時、そう言った。
やけに鮮明に思い出す、懐かしい出来事。
アイツは泣いてしまったけれど、怒鳴った事に後悔はしていない。
アイツはいくら男子のように振舞っても女子だし、
俺が好意を抱く奴だったから。
男じゃなくて、女で良かった、と思った。
でもその後俺は引っ越して、とも貞治ともバラバラになった。
連絡もとらなかった。
そして数年後、立海大附属中に入った。
テニスに惹かれて。
貞治が青学に入ったと風の噂で聞いた。
そして二年が経った。
部活の帰り道、道端で女子が占いをしてもらっていた。
何でも良く当たる、有名な占い師だそうだ。
別に興味も無い。
突然呼び止められた。
「過去に好きな子を置いてきましたね?」
意味が解らない。
いつの間にか女子達はいなくなっていて、その怪しげな占い師と俺だけになった。
「別に置いてきてはいない。」
「いいえ、心の奥深く。仕舞った想いがおありでしょう?」
「知らないな。」
「ふふふ。まあ良いでしょう。後少しで鍵を開ける時がやってまいりますよ。」
・・・何なんだ。気味の悪い。
そう思いながら俺は家路を急いだ。
一週間後、同じ道。
あの占い師は居なかった。
角を曲がる。人とぶつかる。
相手が吹っ飛んだ。
「すみません。大丈夫ですか?」
と言って手を差し出す。
「大丈夫じゃない!ったく腰打った!!」
元気な声。喧嘩腰の、響く声。
これは・・・
「・・・・・・?」
「え・・・もしかして、蓮二・・・?」
後少しで鍵を開ける時がやってまいりますよ。
木霊するあの占い師の声。
全く、気味の悪い。
何にせよ、久しぶりだ。に会うのは。
向こうも吃驚している。
でも直ぐに笑みを浮かべ、
「元気だった?」
と聞いてきた。
俺達は適当な喫茶店に入り、話をした。
良く見ていると、変わっていない所も沢山あり、
ああ、はのままなんだ。と、少し安心した。
意外に近所に住んでいるらしい。
学校は違うけれど、会いたければいつでも会える所にいる。
・・・嬉しかった。
そして気付いた。
自分はまだに好意を抱いていると。
会話が一旦途切れた。
俺から何を言えば良いのか、少し戸惑っていると、が俺をじーっと見詰めてから、ふふっと笑った。
「でもなーんか運命感じるなー。」
「?どうした?」
「わりかし最近夢見たんだよね、蓮二と貞治と一緒に居た頃の。」
夢。
それは遠い記憶の。
「一回貞治を苛めてた奴らがいて、私が喧嘩したじゃん?そん時の夢。」
「懐かしーとか思ってたら、蓮二に会えたんだー。運命感じない?」
・・・俺と全く同じ夢。
疑ってしまいそうなほどの、偶然。
「実は・・・その夢を俺も見た。俺がお前に怒鳴った時のだろう?」
「そうそう!!その時!あれは結構ショックだったんだよー。」
「そのようだな。あのお前が泣いたくらいだから。」
「悔しかったからね。女、って事で行動が制限されちゃうのが。」
少しの間
「でも・・・あれね・・・泣いたのは、別の理由もあるんだ。」
少し言い難そうに、が言った。
俺は頷いて先を促した。
「蓮二に怒鳴られたのが・・・ショックだったから・・・てのもあったんだ。」
「蓮二の事・・・好きだったから。・・・というか、今もなんだけど。・・・だから、女でも良かった、かな。うん。」
頬を染めながらそう言うは、昔より断然女らしく見えた。
早くなる鼓動を押さえつけながら、
どうしようもないくらい上がりそうな熱を押さえつけながら、
俺は自分の気持ちを正直に伝えた。
「 」
その瞬間広がる世界。
ふわりとは微笑んだ。
久しぶりに見た、の笑顔は
とても眩しかった。
その夜、夢を見た。
大人になった俺が居て
大人になったが居た。
俺達は一緒の布団から出て、笑顔を交わす。
太陽の光の下翻る、真っ白なカーテン。
色違いの歯ブラシに、色違いの湯飲み茶碗。
写真立てにはとびきりの笑顔の二人男女。
それが正夢だったと気付くのは、
十数年後の事だった。
(この時ばかりは運命と言うものを信じてしまいそうで)
『光と影』【立海・切原赤也】
全ての影に光があるように
全ての光に影がある。
俺の心は影でいっぱい
それはがいるかから
俺が奴の事を好きだから。
奴が笑って光を放つたび、
俺は暗く、影を作る。
どろどろした嫌な感情が、深い所から湧き上がる。
嫉妬や憎悪。なんでもかんでも。
他の奴を見るな、俺を見ろ。
笑顔を誰にも見せるな、俺だけのものだから。
俺と一緒に影に入るか、俺を光の中へ連れてって。
も好きだって言ってくれる。
俺にはとびっきりの笑顔をくれる。
けど、他の奴にも笑顔を見せる。
それが溜まらなく嫌だ。
本気で嫌だ。相手をめちゃめちゃに殴ってやりたい。
ていうか・・・殴るんだけどよ。
でも俺は、そんな感情を持っちゃう俺も嫌い。
は光の中に居てこそだ、って解ってるのに。
疑わなくても、は俺を裏切らない、って解ってるのに・・・
ごめんな、めちゃめちゃで。
でも、お前の事は大好きだ。
多分、言葉じゃ言えないくらい、な。
上手くこの気持ちが伝えられれば良いんだけど・・・
それが出来無いから。
俺は乱暴になる。
ごめんな。
俺もいつか、お前と同じように優しくなれるかな・・・?
光は眩しすぎて・・・
影に慣れた俺は目が潰れるかも。
(相反する二つの感情。どちらの自分も受け入れてくれるの?)
『嘘と真実』【青学・越前リョーマ】
「別にアンタの事なんてどーでもいいし」
「勘違いもほどほどにしといたら?」
「好みのタイプ、って知ってどうするわけ?」
いつもいつもこうなんだ。
素直になれないっていうか・・・
天邪鬼?ってヤツかな。
「アンタの事、凄い気になるんだ。」
こんな簡単な事も言えない。
いつも変な意地があって、逆の事言って・・・
いつもアンタを傷付けちゃうんだ。
ねえ、少しは気付いてる?
俺が、アンタの事凄い想ってるって事。
ねえ、アンタは俺の事、好きなんでしょ?
だったら気付いてよ。
この俺の、妙な意地から来る嘘の、
その裏に隠されてる、真実の気持ち。
「I LOVE YOU」
お願いだから、気付いてよ。
(それは我侭で理不尽な思いと解ってはいても)
『勝利と敗北』【氷帝・跡部景吾】
地べたを這いずる愚民どもよ
褒めよ、称えよ
同じ世界に住めること、神々に感謝するが良い
さあ目に焼き付けておけ、この姿
試合?勝負?トップ争い?
ハッそんなもの必要は無い
地は足を支え、風は時に羽となりて
帝王の名を欲しいまま、今日もコートを踏み台に
そんな日々、アイツは今日も前を歩く
かと思えば横にいて
かと思えば後ろを歩く
ぼんやりとした影は今も
取り巻き散っては形を成して
アイツの姿形、心さえも
両手で掴める事は無いんだ
審判の声は勝利を告げ
奴の笑顔は敗北の兆し
アイツだけには、敵わない。
嗚呼、この俺様に限って。
(そんな関係が仄かに心地良いと感じる自分はなんだ)
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