少し探せばお前がいるから、同じ事の繰り返しに見える日々を過ごせるんだ。

どこか傍にお前がいるから、毎日がいつも少しだけ変わるんだ。






気付いたら毎日を一緒に過ごしてる。






暖かい放課後。氷帝学園のキャンパス内、太陽の光がほんわりさす小さな丘の上ではのんびりと昼寝をしていた。彼女は帰宅部で、それに部活に行っている友達もいないので別に学校に残る必要も無い。けれど三度の飯より・・・三度の飯と昼寝を愛する彼女は、どうせ家に帰っても睡眠をむさぼるのであるから、むしろ自然を満喫しつつ眠る、という健康にも良さそうな事をしておけ。と学校の丘の上で寝ているのである。

説明が長くなったが彼女は青々茂った芝生に直接座り、大きな木の根元によりかかって、枝が軽やかなメロディを奏でるのを意識の遠い所で聴いていた。ぼんやりとした頭の中では、小さな小さな雛鳥(は勝手にピーちゃんと名付けた)が巣の中で母鳥の帰りを待っている、という大変微笑ましい夢を見ていた。

瞬間、ドサッという自然では起きてはならないような大きな音が真横でして、ああ哀れ、ピーちゃんは巣ごと地面に叩きつけられた。オウ。イッツ ア ナイトメア。

「ピーちゃん!?」

は吃驚するやら悲しいやらで、思わず大声を上げて跳ね起きた。そして物音のした方へ目を向けて、整った眉を潜めて怪訝な顔をしている氷帝学園三年生徒会長兼男子テニス部部長の跡部景吾を見つけたのだった。

「・・・ぴーちゃん?」

「いや、うん。何でもないよ。」

慌てて手を振りつつ彼の足元を見ると、テニスバッグが置かれていて、畜生これでピーちゃんが・・・!とは心の中でちょっとテニスバッグを恨んだ。まあ彼女(彼かもしれない)は所詮は夢の産物。現実に頭を戻そう、と考えて、最初に思ったのはなんで目の前に跡部がいるか、と言う事だった。

「何でここにいるの?」
「いたら悪いか」

としてはほんの少しだけ親密なクラスメイト(しかも超美形で、超人気者)が自分の前に立っていたから、これは疑問に思わなきゃおかしいだろうという事で聞いただけであり、どっかいけよコノヤロウ。とかいう思いなんぞ微塵も無かった。

けれど聞かれた跡部は、自分が彼女の目の前にいる事を非難されたと思い、不機嫌そうに言った。お坊ちゃんの彼は頭は良いくせに、こういうプライベートな面では応用がきかない時がある。はそう言う面もしっかり知ってるので、苦笑をしてまたゆっくりと幹に背を預けた。のんびりと、欠伸と伸びをして。

「別に悪かないけどさ。部活終ったの?」
「ああ」

ここで、「じゃあ何でここにいるの?帰らないの?」と聞こうと思ったが、そうすると「部活が終ったら直ぐ帰らなきゃいけねーのか」とか「いつ帰るかは俺様の勝手だ、バーカ」とか言われそうだから黙っていた。事実、以前何度か言われた事がある。彼は俺様なのだ。

暫くの沈黙。

昼間はぎらぎらした太陽も今は傾いて丁度良くて、木々の囁きはを夢の世界へと誘っていた。脳の片隅にはピーちゃんが復活していた。ああ良かった、生きてたんだね。凄いや。もう直ぐお母さんが・・・という所でまたもや邪魔が入った。今回は跡部の呟きで。

「・・・・・・帰らない理由とか聞かないのかよ」

「はあ?」

思わず間抜けな声では聞き返した。ピーちゃんは遠く彼方へ吹っ飛んだ。声に負けず劣らずの間抜け顔な顔をしたは、立ったまま木に寄りかかっている跡部を見上げた。腕を組み、スラリとした足をさり気無くクロスさせて、考え事をしている面持ちで遠くを見ている姿は格好良い。跡部は首だけを動かして逆にを見下ろした。眉間の皺を更に濃くして。ほんのほんの少しだけ頬を染めて。

「何で帰らないか、疑問に思わねーのか?って聞いたんだよ!!ったく何度も言わせんな!」

いや、一回しか言って無いし、しかもアレ独り言っぽくなかった?と言い返す勇気はには無かった。彼女の頭の中はもうしっちゃかめっちゃかだ。
(なんですか?さっき私が疑問に思って事、言っても良かったんですか?むしろ聞いて欲しかったの、ねえこの人?しかも何気に態度が可愛いしよ!!こん畜生め!!)

気を取りなおして。はにやりと笑いたいのを堪えて、何でそんなに変な事ばっか言うのさ?と言ってやりたいのも堪えて、取り敢えず言われた通り跡部に聞いた。

「えっと、何で帰らないんですか?」
「今帰る。」

即 答

(・・・マジで意味わかんねーこの人。)
は『意味わかんねー』顔(ゲーム○ーイ版たまごっちが、何もして無い時に叱るとする顔。はあ?みたいな。)をした。
そんなを放っておいて、跡部はテニスバッグを肩にかけ、丘を下り始めた。その背中に向かっては(見て無いだろうけど)手を振って、声をかけた。

「ええと、じゃあねーまたあし・・・」
「ぁあ?何やってんだ?」
「は?と言いますと?」

呆れ顔で跡部は振り向いて、半分下りかけた丘をまた上がった。少し伸びすぎた芝生を強く踏み、テニスバッグをガチャガチャいわせながら。
そして本日何度目になるかわから無い変な顔をして立っているの横を通って、木陰で寝そべっていた彼女の鞄を持ち上げて、ぐいと乱暴に彼女に押し付けた。
突然の事で面食らいつつ、鞄を受け取って、今度はが怪訝な顔で跡部を見た。



「はれ?帰るんじゃ無いの?てか私の鞄?」


「ったく・・・お前も帰るんだよ!」


テニスバッグをどこか気まずそうにもぞもぞ動かして、両手をポケットに突っ込んで、そのくせそれは背が高くて顔が整ってるから格好良い姿で。跡部はそっぽを向いたまま言い捨てた。

自分の耳がほんのほんの少しだけ熱いのはきっと沈みかけた大きな夕日のせいだと跡部は決めつけ、スタスタとまた丘を下り始めた。数メートル後ろからが下りてくる足音がして、無意識の内に笑みを浮べて。

















直ぐ隣りでお前が歩いていれば・・・いつもの帰り道も、少しは楽しめるんだ。




















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遠回しに、『一緒に帰ろうぜ。』跡部様素直じゃないのです。
第三者視点て、何気に難しい・・・。

(ブラウザバックプリーズ)